6月11日名古屋で行われている第63回日本老年医学会学術集会
シンポジウム『高齢者のオンライン診療』にて座長及び講演、
シンポジウム『かかりつけ医と老年医学』にて講演をしてきました。
どちらも有意義な会となり、わずかですが今後の医療の発展に一石を投じることができたのではと考えております。
シンポジウム5 高齢者のオンライン診療(コロナ禍を含め)
演題:コロナ禍のクリニックのオンライン診療と高齢者診療におけるInformation and Communication Technology(ICT)
抄録:
オンライン診療はその診療精度の低さ、診療報酬の低さなどから導入を望まない施設も多く、2018年保険収載されたにも関わらず昨年のコロナ禍前の普及率は約3%前後と低い水準であった。しかし、2020年新型コロナウイルス流行により、医療のICT化が一気に進み、オンライン診療の普及率はたった半年で約15%にまでに伸びた。都心部ではビル内診療所が多く動線も分けらないため、感染疑い患者をそのまま受け入れることは難しく、院内感染対策として急速に広まったと考えられる。本シンポジウムでは当院でのコロナ禍におけるオンライン診療やICTを用いた感染対策の取り組み、昨年板橋区医師会及び東京都医師会にて行ったオンライン診療に関する意識調査の結果から、オンライン診療の現状と問題点を報告する。
一方、高齢者における情報端末の普及が低いため、昨年4月10日発出の「電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的措置」においても高齢者はほとんど電話診療しか選択肢がなく、特例の恩恵にはあずかれなかったと考える。高齢者がオンライン診療を行うためには情報端末以外にも、設定時や診療を行う際のサポートが必要であり、家族、ケアマネ、訪問看護の関与が望ましい。ただ、一度設定をしてしまえば、二度目からは比較的スムーズに行えること、独居高齢者に対するICT環境の整備は医療、介護体制など地域包括ケアシステムにとって大きなアドバンテージになると考えられる。また、老年医学とオンライン診療は相性がよく、その事例についても紹介する。
シンポジウム8 かかりつけ医と老年医学
演題:CGAを活かした地域包括診療
抄録:
老年医学において高齢者総合的機能評価(CGA)はその根幹の一つである。1935年、英国のWallen Mがはじめたこの評価ツールは、高齢者においては病気に対して診断から治療という単純な解決法では不十分で、個人のADLや認知機能、精神状況から、個々における治療目標を設定し、さらに治療後のリハビリや生活へのサポートが重要であることを示しており、1980年代以降多くの有効性が報告された。近年注目されるようになったフレイルにおいては、その構成要素である身体的、精神・心理的、社会的側面に関して、そのターゲットは介護レベルから介護前段階レベルに移り、より早期でより複雑な評価が求められるようになってきている。2012年には入院した高齢者へのCGAに対して「総合評価加算」が保険収載されたが、未だに外来においてCGAは無報酬であり、普及していないのが現状である。
一方で、国は超高齢社会を迎え、高齢者におけるQOLを重視したライフスタイルの実現のため、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一元的に提供される地域包括ケアシステムの構築を目指し、2014年医療分野においても一般診療に加えて24時間サポート、在宅医療、さらには介護予防や健康管理といった総合的なかかりつけ医機能を評価する地域包括診療が保険収載された。地域包括診療は病名こそ、認知症、糖尿病、脂質異常症、高血圧と限定されてはいるものの、緊急時の対応を除けば、介護予防、健康増進、服薬管理とまさにCGAが活きる場が与えられたのである。当院では2018年この専門外来を開設した。
また、CGAは文字通り高齢者総合的機能評価であることから、時代や地域などにおいても変化させていくことが当然と考える。新型コロナウイルス感染流行下での診察や災害時の安否、情報確認ではICT環境と利用状況、昨今急増する建物老朽化問題では断熱や換気など住居環境に対する評価も必要と考える。
本シンポジウムでは当院の地域包括診療の方法や今後のCGAのあり方、可能性について紹介する。